東京シティオペラ協会

お問い合わせ

ナレーションによる解説付きのオペラ公演は、東京シティオペラ協会で。

トップページ

KEI音楽学院

うんちく大家、大いに語る

Rigoletto

八つぁん大満足!《 リゴレット 》に大痺れ

「おい大家、おめえはおぺらなんてもの」見たことねえだろ、おいらは見てきたぜ」
「何だね、偉そうに、あたしゃあねおぺらにゃ詳しいんだよ、で、何を見たんだい」
「エヘン、リゴレットよ、良かったねえ、おいら泣いちゃったよ」
「それは良い物を見たね、原作者はかのヴィクトル・ユゴー、ほら、知ってるだろ、レ・ミゼラブル、八っつぁんには《 ああ無情 》の方が解るかな、それに《 ノートルダムのせむし男 》の作者だ、おっと今はこんな言葉を使っちゃいけないんだったな」
「おお、知ってる知ってる、小学生の頃、子供向け名作全集で読んだことがあるぜ、しかし《 リゴレット 》も不具の男が主人公だったな、あんなのばかり書いていたのかい」
「ああ、社会の矛盾、人間の情念をテーマにしていた人だからね、深く考えさせられる作品が多かったんだよ」
「それで、おいらも何か感じちゃったんだな」

ユゴーの戯曲にヴェルディが惚れ込んだ

「《 リゴレット 》の原作は、戯曲《 王様はお楽しみ 》、これは実在のフランス王のご乱行を取り上げた為、不敬ということで一日で上演禁止になっちゃったんだ」
「不敬だなんてまた古いねえ」
「まあそういう時代だったんだよ、1832年のことさ」
「それがなんでまた《 リゴレット 》になったんだい」
「ヴェルディがこの戯曲をオペラにしたくてたまらなかったからさ、なにより主人公が不具の道化という設定、一方若さと美貌、おまけに権力まである王がいて、道化は王にへつらって生きている、その王に娘を弄ばれ、復讐するつもりが、逆に娘を殺す結果になってしまう、全く救いのない物語だが、ヴェルディは体制批判よりも人間の[情]に焦点を当てたオペラにしたら、大傑作ができると思ったんだな」
「へえ、どうして?」
「当時まだ統一国家ではなかったイタリアにあって、ヴェルディは人心を鼓舞する、言わば愛国的なオペラを作ってきた、それで名声も得た訳だが、《 リゴレット 》の前作《 ルイザ・ミラー 》辺りから、英雄物語ばかりではない、普通の人間の細やかな情を表すテクニックが備わってきたんだな、ヴェルディはこれこそ自分が進むべきものだと思ったんだろう」
「作風がかわってきたってことかい」
「おや八っつぁんも乙なことを言うねえ、それでヴェルディはヴェネツィアのフェニーチェ座からの新作依頼に、これを当てようと思ったんだ、そして台本作家のピアーヴェと共に、実現に向かって猛然と突き進んだ、でも当局はなかなか認めようとしない、すったもんだの末m舞台となる土地、題名、登場人物の名前を変えることで、やっとOKになったんだ、その過程では主人公のリゴレットを不具ではない立派な体格の男にしろなんていう要求もあったのだが、これはヴェルディが頑として受け入れなかったんだね」
「へえ、ヴェルディは生まれながらにして不幸を背負う男に余程思い入れがあったんだねえ」
「そうだねえ、それに当時ヴェネツィアには優れた歌い手がいてね、ヴェルディはきっと意に適う表現をしてくれると思っていたのさ」

これは驚き!わずか40日で作曲!!

「《 リゴレット 》が僅か40日で作曲されたっていうのは本かい?」
「そうだよ、ヴェルディは楽想が次から次へと生まれる状態だったんだね、面白い話がある、歌の部分は作っておいたが、オーケストラ部分はスケッチ程度にしておいて、実際の練習を見てから作ったそうだ、だからあの臨場感溢れる音楽になったんだね」
「ウーン!」
「さすがの八っつぁんも感心しきりだねえ、実際聴いたときの感動はすごいだろ」
「ああ、出てくる人物の性格が判るし、嵐の場面なんざ腰を抜かすくらい雰囲気が出ていたよ」
「ああ、あれは後世の映画音楽にも絶対影響を与えているだろうね、いやね、影響というのま真似されたということさ」
「同感!同感!」

ヴェルディが訴えたかったこと

「ところでヴェルディは《 リゴレット 》で何を言いたかったのかねえ、あたしゃ[正義]というものは作り事で、人間の真実は[情]にあるということを訴えたかったんだと思うね」
「ヒエー!?難しい話になってきたねえ」
「なあに簡単なことよ、リゴレットは、人が不具でないから人を恨み、公爵が公爵であるから公爵を憎み、貴族が貴族であるから憎んだ、そして娘を弄んだ公爵に復讐しようとした、これがリゴレットの正義だ」
「うんまあ解る」
「一方公爵は、他人のことは何も考えない、目に付いたから女を口説く、その時その時の自分の気持ちに忠実であることが公爵にとっては正義なのだ」
「うん、おいらも、よくモテるから、その時々は真剣だという公爵の気持ちは解るねえ」
「バカ言うんじゃないよ、正義ほど怖いものは無いということさ、早い話この世界、声高に叫ばれる正義が実は独善であることが随分多いじゃないか、あたしゃあね自分の在り方には悪いところもあると自覚している方が、より人間的な生き方ができると思うんだ、自分は絶対正しいと言う者の言動の方がどんなに傍迷惑的なことか」
「それは解るね」
「大国や地域住民のエゴが渦巻く中、ヴェルディは、正義はごめんだ、それより人間の[情]にこそ真実があると叫びたかったのではないかな」
「ウーン」
「父娘の愛情に疑義を唱える者は無い、これは真実だ、ヴェルディは人の心を打つ[情]こそ最も大切なものだと訴えたかったのだろう」
「何だか考えさせられるねえ」

やっぱり魅力いっぱいのリゴレット

「でも《 リゴレット 》では公爵もジルダに対しては一瞬とはいえ真剣さを見せるし、なにより音楽が一種スポーティーな快感を与える程スリリングで、終わった後にカタルシスを覚えさせられるので、救いようもない悲劇にも拘らず健康な活力を人々が得る、そこに人気があるのだと思うね、おや、こんな講釈をしていたら、あたしも《 リゴレット 》を見たくなったねえ」
「そう言えば今度東京シティオペラ協会というところが《 リゴレット 》をやるって聞いたぜ」
「そうかい、それじゃあたしも出掛けようかねえ」

(文責:萩野 昌良)