東京シティオペラ協会

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KEI音楽学院

うんちく大家、大いに語る

Lucia

うんちく大家
ドニゼッティと《 ルチア 》を語る

「おい熊さん、また大家に呼ばれちゃったよ。うっかりルチアを観に行くなんて喋っちまったもんでよう、早速能書きをたれたくなったんだろうねえ。一緒に行ってくれよ」
「えーっ八つぁん、それはえらいこっちゃ。それじゃ一緒に行くっきゃねえなあ。でもあの因業大家の奴め、オペラとなると人が変わったように、好い爺さんになるじゃねえか。うんちくを拝聴して、おいら達は勉強になるし、ちょっとおだてたら、また家賃を待ってくれるかもしれないぜ。まあ嬉しそうに聞きにいこうぜ」
「おお、二人そろってやって来たか。待ってたよ。いや、うちの長屋の住人が、オペラにはまるなんて全くもって結構なこった。で、何かい?今度は《 ルチア 》なんだってな」
「そうなんですよ、二人とも全く無知なもんで、ひとつレクチャアして下さいな」

原作者はウォルター・スコット卿

「よしよし、《 ルチア 》の原作者はスコットランドのサー・ウォルター・スコット。サーが付いているんだから偉いのは判るだろ?ヨーロッパで広く愛好された19世紀の大ベストセラー作家だ。中でも《 ランマームーアの花嫁 》は最も人気の高かった長編小説で、これがルチアの原作なんだ」
「おお、そのランマームーアよ。オペラの題名が《 ランメルモールのルチア 》ってなってるけど、そのランメルモールってのがおいらには解らないのさ」
「アハハハ、いいかね熊さん、それは地名だよ。ルチアはランメルモール地方の領主、アシュトン家の娘なのさ」
「なあんだ、聞けばそんなに簡単なことなのか。これで解ったよ」
「なにしろスコットの歴史小説は面白いから他にもオペラ化されたものは多い。《 ランマームーアの花嫁 》を取り上げたのも、ドニゼッティだけではないんだ。しかし、ドニゼッティのオペラが、あまりに素晴らしいいんで、《 ルチア 》が突出して有名になったわけさ」

ドニゼッティの人間性

「で、ドニゼッティって人はどんな人だったんだい?」
「そうだね八つぁん、ドニゼッティについて語らなくちゃね。ドニゼッティは随分貧乏な家庭に生まれたんだ。でもその頃ベルガモにできた、職業音楽家を育成する学校に入学することができ、そこで良い先生と出会ったのさ。しかも無料で教えてくれたというんだから、ドニゼッティの才能は早くから光っていたんだろうね。またこのような善意に恵まれたことで、彼の人間性もすこやかに育ったんだと思うよ」
「ほう、それはどういうことなんだい大家さん」
「大体ドニゼッティは速筆で有名なんだが、それは頼まれたら嫌とは言えない性格にもよると思うんだ。なにしろオペラを70あまりも作っているし、一本を2週間で書き上げるなんてこともザラだったんだ。余程人の意向を汲む性格だったんだね。人が善いことの証拠に、ライヴァルのベルリーニに対する称賛があるね。この年下のオペラ作家は天才的に美しい旋律を作って人気が高かった。ドニゼッティは、少々後塵を拝していたきらいがあったんだが、手放しでベルリーニを誉めているのさ。いいかね、人を誉めるということは、自分の力に自信がなければできないし、なにより人間性さ」
「なるほどね、ドニゼッティって人が少し好きになってきたよ」

ルチアのあらすじと解説

「それじゃあ、オペラの進行に従ってレクチャアしようかね」
「時は17世紀。舞台はスコットランド。アシュトン家とレーヴェンスウッド家は仇敵同士だった。ランメルモールの領主エンリーコ・アシュトンは、奸計をもってレーヴェンスウッド城を奪い、我が物にしておった。しかし、このところどうも家運が傾き勝ちで、妹のルチアを政略結婚の道具として家を守ろうと思っていた。だが、ルチアはレーヴェンスウッド家の当主エドガルドと、密かに心を通い合わせていたんだ。」
「フーン、これがオペラの背景かあ」

第一幕(第一場)

「エンリーコの家老ノルマンノが兵士を引き連れ、この頃域の回りに出没する怪しい男を見つけだそうとしている。冒頭の男声合唱は当時のイタリア・オペラの定番でな。ドニゼッティはこれを踏襲したのさ。兵士たちが散って行くと、エンリーコが登場。政略結婚をルチアが拒んでいるので苛立っている。ルチアの家庭教師のライモンドは、お母様を亡くしたばかりなのですから、とルチアをかばうが、ノルマンノがとんでもないことを言い出した。ルチアが恋に落ちているらしい。しかもその相手がエドガルドではないかというのだ。このノルマンノが語る部分の音楽は実に充実していてドニゼッティの力を感じさせるよ」
「なんかもうワクワクしてきたよ。さあ早く続きを話してくんねい」
「はいはい。さあ、エンリーコは怒り心頭だ。憎悪に燃えたアリアを歌い出す。このアリアも格好よくて痺れるはずだよ。このようにバリトンの重要な役割を持たせるのはドニゼッティが始めたことなんだ。これは後のヴェルディで更に比重を増し充実するね。さて、そこに兵士たちが戻ってきて、アリア中間部の合唱となり、男はエドガルドだったと報告する。この中間部の合唱は印象深く効果的で、この形は後にヴェルディがリゴレットやトロヴァトーレで取り入れているよ。さあエンリーコの怒りは激しさを増すばかり。後半部分では気持ちを叩きつけるように歌って第一場は終わる。」

第一幕(第二場)

「場面は変わって泉のある庭園の入り口。ハープの独奏に乗ってルチアが侍女のアリーザを伴って現れる。エドガルドと、ここで逢う約束なのだ。アリーザは、危険な恋が心配でたまらない。これは台本作家カンマラーノお得意のシチュエーション。カンマラーノが台本を書いた、ヴェルディの《 イル・トロヴァトーレ 》や《 ドン・カルロ 》にも似た場面があるよ」
「なるほど、色んなところでイタリア・オペラはバトンが受け継がれているんだねえ」
「さあ、話を進めよう。ルチアはここでアリアを歌う。まずカヴァティーナの部分では、泉にまつわる因縁、即ち、むかし殺された女が泉の底に眠っており、真夜中にその幽霊が現れてルチアを手招きした。そしてやがて消えた。すると泉の水は血で赤く染まったと歌うんだ。不吉な前兆だと動転したアリーザは、必死にこの恋をやめさせようとするが、ルチアは次のカバレッタに移って、今度はエドガルドへの熱い思いと喜びを華麗なコロラトゥーラのテクニックを駆使して歌う。そこへエドガルドが登場する。彼はフランスへ旅立たなければならなくなったので、その前にエンリーコに会って二人の結婚を許してもらおうと考えていた。しかしルチアはまだ二人の恋は秘密にしておくべきだと諭す。エドガルドは怒ってエンリーコによって滅ぼされた家のことを語り、長大な二重唱となる。復讐を誓うエドガルドにルチアは優しい旋律で絡み、次第にエドガルドの怒りは今は鎮まる。二人は互いに指輪を交換して愛を誓い、離れても手紙でお互いを確認しようと語る。そして美しい愛のテーマを繰り返し歌って盛り上がるんだ」
「いいねえ。目に浮かんでくるようだよ」

第二幕(第一場)

「場面はエンリーコの居室。今日はエンリーコが政略結婚を画策したルチアとアルトゥーロの結婚の日だ。でもルチアは未だに承諾していない。ノルマンノは、偽手紙でエドガルドの心変わりを、ルチアに信じ込ませようとエンリーコに持ちかけた。エンリーコもそれに乗ることにした。エドガルドの本当の手紙は、ノルマンノが握り潰していたのさ」
「エーッ、そいつはひどいな」「ホント、とんでもない奴らだ」
「まあまあ、二人ともそう興奮しないで。ルチアは政略結婚に苦しむ心を切々と訴え、私は別の人を愛していると言うが、エンリーコは偽手紙を見せてルチアにエドガルドの心変わりを突き付ける。嘆くルチア。その時、祭りの音楽が聞こえアルトゥーロの到着が告げられる。エンリーコは、わしを裏切ればわしの幽霊を見ることになるぞ、とルチアに激しく迫って部屋を出ていってしまう。残ったルチアに、ライモンドが、運命に従うように、と説得してルチアは更に苦しむんだ。ライモンドはノルマンノの謀とは知らずエドガルドの心変わりを信じ込んでいたのさ」

第二幕(第二場)

「さあ、話は急を告げるぞ。舞台は城の大広間。婚礼の準備が整えられ、人々が婚礼の合唱を歌っている。続いて花婿のアルトゥーロが、エンリーコの擁護者となることを宣言する短いアリアを歌う。人々は喜んで祝福する。エンリーコはアルトゥーロに、もしルチアが悲しそうでも、それは亡き母親を思っているからだと予防線を張る。そして抜け殻のようになって現れたルチアに、結婚契約書にサインするよう強要する。ついにサインしてしまい、私は自分の罪の宣告状を書いてしまったと、今にも倒れ臥しそうなルチア。そこへ突然エドガルドが登場。ここで音楽は有名な六重唱となるんだ。ルチア、アリーザ、エドガルド、アルトゥーロ、エンリーコ、ライモンドそれぞれの心情の吐露が、見事なアンサンブルとなる手法は見事で、オペラ史上特筆されるべきものなんだよ。その後、結婚契約書を見せられたエドガルドは、ルチアにお前が書いたのか、と迫り、ルチアのそうです、という答えに逆上して、自分の指輪をルチアに突き返し、ルチアの指輪をもぎ取って投げ付け踏みにじるんだ。何と惨い破局なのか!大混乱の中、人々はエドガルドを激しく非難し、彼を立ち去らせようとする」
「すごい展開だね。でもこれが全部音楽で語られるんだろ。オペラって魅力的だねえ」

第三幕(第一場)

「さあ、いよいよ有名な狂乱の場が始まるぞ。場面は城の大広間。結婚式の宴会に集まっている人々が喜びの合唱を歌っている。実に明るい音楽が、かえって悲劇を予感させる。そこへライモンドが入ってくる。音楽は重苦しく悲劇的なものに一転し緊張が走る。悲しみのあまり気がふれてしまったルチアが、婚礼の床で花婿アルトゥーロを刺し殺してしまったというではないか。茫然と息を飲む人々。そこへ血に染まった白いドレスをまとったルチアが現れる。このオペラ一番の聞き所《 狂乱の場 》だ。顔面蒼白で髪を振り乱し亡霊のようなルチアが、エドガルドとの甘い思い出に耽り歌い出す。彼の優しい声が聞こえたの、と始まる歌は、時にあの泉の幽霊を見たり、あるいは二人の結婚式の準備の場面を歌ったり、また幸せに溢れた感情を表現したりと、正にルチアの錯乱状態を表したものだ。人々はルチアを憐れんで見つめるだけしか術がない」
「おお、話を聞いただけで泣けてくるねえ」「本当に鬼気迫る場面とはこのことだ」
「まあ先を急ごう。そこへエンリーコが入って来る。最初は怒っていた彼も、事情を悟って後悔の念に駆られる。ライモンドも人々も涙をこらえることができない。ルチアはなおも歌い続け、指輪を踏みにじられた悲しい出来事や、兄の犠牲になったことを訴え、果てはアルトゥーロへの謝罪を口走り、この世の苦い涙を取り去って下さい、と最後のカバレッタを歌ってその場に倒れ臥してしまうんだ」

第三幕(第二場)

「いよいよ終幕だ。ここはエドガルドの力量に懸かっていて、テノールの本領発揮の場だ。アリアも格調高く素晴らしいものなんだ。場面はレーヴェンスウッド家の墓地。エドガルドが祖先の墓前にぬかずいて、死を願い、墓に迎え入れられたいと歌う。ルチアを不実な女だと思い込んでいるエドガルドはルチアのいない世界は砂漠だと嘆いている。その時城から行列が出て来る。不幸な乙女よ、恐ろしい運命、と歌っているではないか。エドガルドは、誰のために泣いているのかと尋ねる。ルチアのためにとの答え。そしてことの顛末は知らされる。驚愕するエドガルド。鐘の音が聞こえた。既にルチアが息を引き取ったことを知らせる鐘の音だ。一目ルチアに会いたいと城に駆け込もうとするエドガルド。ライモンドがそれを遮って、ルチアはもはや天国に、と告げる。エドガルドは、神に向かって飛び立った君よと歌い、人々の制止を振り切って我と我が胸に短剣を突き刺す。そして最後の力を振り絞って、天上で二人を結び付けて下さるようにと歌って、ついに息を引き取ってしまうんだ。これで全編の終わりさ」
「なんか泣けてくるなあ」「大体頭に入ったぞ。これで舞台に集中できるってもんだ」

(文責:萩野昌良)